| NeoM rePublicトップ > 手塚眞監督作品 Making of「20 SCENES」~PART 2~ |
IMAGES
ぼくはいつも、できるだけシンプルな映画を夢見ている。 ストーリーも何もなくて、ただ人が写っているだけの映画。 真白な壁の前に人がじっと立っていて、台詞もなくて、それが5分くらい続く、とか。
そういう映画はふたつの理由で作るのが難しい。ひとつは、多くの観客は退屈してしまうから。どちらかといえば観客に対するチャレンジ。 もうひとつは、それでもみていられる「質」を写し出さなければならないということ。「質」というのはいい衣装を着るとかそういうことではなく、そこに写るモノや人の「気」や「資質」ということだけども。心の中の動きや色、といったもの。それを被写体に求めるのは簡単ではない。対話が必要になる。眼に見えないシナリオも。じっくりと時間がかかる。
20×20
今回は20の場面を並べることで感じ取れる「質」を求めた。ひとつひとつは飾り気なく薄い記号にすぎなくとも、20の場面が組み合わさると、別の「質」が見えてくるような。1年の印象をひとつの場面に凝縮し、それを20秒だけみせる。20年間、20の場面、20秒ずつ。どんな数理的な映像の錬金術が起こるだろうか。
SHOOT!
初日は朝8時集合。 会社のスタジオとその近辺ですべてを撮影する。 スタジオといっても、たかだか10畳程度の部屋がひとつあるだけ。 ぼくは以前、6畳の和室にセットを作っていたこともある。 それでも撮りようによっては特別な空間に変身する。 映画は手品みたいなものだ。 本物があれば越したことはないが、ニセモノでもかなりウソがつけるメディアである。
たとえば衣装。 今回は顔のアップを中心に構成するので、下半身や靴は重要ではなくなる。 それを省略することも可能だ。 そういうところで予算を削ってゆく。 極端にいえば、相手役やいるべき人々も省略してしまう。 観客には想像でみてもらう。
あるいは場所。 今回の舞台には、学校、廃墟、警察、結婚式場、アパート、病院、バー、レストラン、華やかなステージなどが設定されている。 雨が降ったり、雪景色だったり。 時間があればそれぞれ場所を借りて撮影すればいいのだが、移動やセッティングに手間取り、1週間あっても終わらないだろう。 もちろんすべてをセットで作ったら、いくらかかるかわからない。 それらを数か所でまとめて撮ってしまう。
そんな無謀なプラニングをできるのは、映画ならではの「ウソ」と、監督(つまり自分)のビジョンが明確だから。 そこで必要なのが絵コンテ。 20の場面をシンプルな絵で描く。 (ああ、絵が描けて良かった…) それを見れば内容や必要なモノは一目瞭然。 出演者やスタッフにも事前に見てもらって、イメージを掴んでもらう。 もちろん実際の撮影ではそこからさらに発展させるのだが。
主演の江口さんには、このコンテを見てもらった上で、撮影前にミーティングをした。 こちらが考えていることを打ち明けて、不明な部分を説明。 このミーティングで今回の「演出」はほとんど終わり。 あとは現場で彼女の感性に期待。
まずは好きに演じてもらう。 次に、少しだけそれにアドバイス。 必要があれば、こちらが考えている別バージョンのテイクも撮る。 だいたい、2から3テイクでどの場面も撮り上げる。 ということは、本番そのものはものの数分で終わってしまう。 そしてメイクに30分から2時間。
メイクは単に変えてゆくだけではなく、そこに1年間の女性の成長(または退廃)が感じられなければならない。 ヘアメイクの勇見さんはその難しい課題を実にていねいに、そして一生懸命取り組んでくれた。 少しずつ顔が作られてゆく。 鏡の前の江口さんもそれを見て気持ちが変化してゆく。 その年齢の役になってゆく。
「ポイントは肌です」と勇見さん。 年齢に応じてファンデーションの使い方を変える。 時にはスッピンで肌の質感をそのまま生かす。 ふつうの映画やモードではなかなかやらない特別なテクニック。 こうして20代の江口さんは、ティーンエイジャーから30代の女盛りまで変身。 素直で無垢な少女から、屈折したプチ悪の娘、そして生活に疲れた女…。
判戸さんの衣装も、最小限の準備で最大限表現できるように工夫されている。 打合わせで、汚れる服、きれいに使う服など分けてリストアップ。 それに従って買い取りになるのか、リースになるのか、判断して用意する。 汚れない衣装には江口さん自身の私物もお借りした。 (もちろん企画の段階でそこまで想定している)
メイクをしてもらっている間に、次の場面の撮影準備になる。 撮影スタッフはたったふたり。 ほぼ、ぼくがひとりでセットから照明までセッティングする。 本当に手作りのムービーだ。 今回の狙いはシンプルでざっくりした映像。 なので極端にデリケートな照明はやめた。 そうそう、スチールも自分で撮影。(さすがにスタッフにも驚かれたけど…)
個人的に面白かったのは、生活感あふれるアパートのセットかな。 身内の所有するアパートの部屋に、制作アシスタントの舞さんが洗濯物や子供の玩具などを運び込み、それを飾り付けた。 味付けは「昭和」なイメージ。 だからテレビも手回しのチャンネル付き(これはぼくの私物)。 窓の外から夕陽を模した照明を当てる。 江口さんもバッチリ生活に疲れたイイ感じ。 いままで一度もぼくの映像にない印象的な場面になった。 (何しろぼく自身が極端に生活感ない人間なので…)
雨の場面は夜、庭で撮影。 水道からホースをひいて背景に降らし、俳優に直接当たる部分だけシャワーの湯を使った。雪の場面は背景に雪景色が欲しかったので、グリーンバックで撮影。 (ふつうはブルーバックだが、照明がブルーなのでグリーンを使う) 後でデジタル合成で雪景色を作ってもらい、白い息も合成する。
こんな風に初日は14シーン(カット)撮影し、ぎりぎり電車がある時間に終了。 みんなあわてて帰る。 参考までに、劇映画の1日に撮影できる平均カット数は、ハリウッドで5~6カット、日本で10~15カット程度といわれている。
2nd DAY!
撮影二日め。 昨夜が遅かったので、今日は9時集合。 新宿にあるウチの事務所を準備で使い、近所のレストラン「ルシアン」を借りて撮影。 (持つべきは行きつけの店!) 残り6カットなので、今日はかなり余裕ある。 とはいえ、メイクは次第に難しくなってゆく。時間も余計にかかる。 勇見さんのメイクのバリエーションの多彩さにも驚かされたが(ヘアウイグの使い方に注目)、メイクと役に応じて顔つきも(眼つきも!)変わってしまう江口さんにもビックリ。 顔の輪郭ごと変わってしまうのだから、天性の役者かもしれない。 ぼくは変身できる俳優を尊敬するし、そういう俳優が好きです。
「今回の映画は江口さんのプロモーションみたいだね」といみじくもスタッフがいっていたけれど、ひとりの俳優のこんなに様々な姿を一度に見られることも稀だろう。 それぞれの格好で、1本のドラマを想像してしまう。 彼女らしいときもあり、正反対の設定もあり。 それを何もしない20秒だけ撮る。 とてもぜいたくだ。
撮影ができると編集なのだけど、今回はシンプルな作りだから編集もシンプルに。 グラフィックデザイナーの尹さんが編集ソフトを覚えて繋いだ。 場面に応じてイフェクトも使う。 手慣れた石川さんが手伝ってくれた。 石川さんは『ブラックキス』をはじめ、ぼくの最近のショートムービーをずいぶん手掛けてもらっている。 もともとは『白痴』から映画の世界に入った人だ。
MUSIC!
音楽をお願いしたのは、古い友人のミュージシャン大津真さん。 80年代はサンセット・キッズというニューウェーブ・バンドを率い、最近は Giulietta Machine というユニットでCDも出している。 ぼくのショートムービー、特に実験映画系のものはずいぶん作曲してもらっている。 ドライな感性が合うのである。
今回はアンビエント的な音に江口さんのヴォイスを乗せようと考えていた。 ナレーションがそのまま曲の一部になるような。 ローリー・アンダーソンやイーノの曲を参考に聴いた。 決して感情を説明せず、淡々と描写されるドライな音楽が欲しかった。
大津さんと数回の打合わせで、後はお任せ。 デモ曲を聴いて方向性を決め、「ベースを入れて」「軽いメロディを加えて」と要求。 数度のデモを上げてもらい、数日で完成。
音楽に合わせて映像を編集し直すことも考えたのだけれど、むしろピッタリ合いすぎないユルさがある方が作品にはいいのではないかと考え、そのまま音を乗せる。
音と映像の兼ね合いには様々な方法論がある。 ユニゾン的にシンクロさせることもあるし、逆に対位法的に使うこともある。 今回はミニマル・ミュージックの方法論のように、映像と音楽のリズムにズレを作り出すことで、複雑な映画的テンポを作り出す。
ここのところは完成した今でもまだ考えている。 映像のテンポと音楽をピッタリ合わせると、ドライな印象が強められることは事実だ。 その方が今回の内容に合っているだろうか。 また、あえて音楽だけを音として使っているが、わずかな効果音(雨や風など)を加えることで、より場面が生きてくるかもしれない。 やり過ぎると余計かもしれない。
いずれそうした別プランに沿った別バージョンも作ってみようかと想う。 音楽に様々なミックス・バージョンが存在するように。 映画もミックス違いがふつうになるかもしれない。
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<手塚眞 プロフィール> 学生時代『お茶の子博士のホラーシアター』をテレビで自作自演して評判になり、インディーズシネマの黎明期にロック・ミュージカル『星くず兄弟の伝説』を監督。プロデュースしたCD-ROM『TEO-もうひとつの地球』は世界19か国で58万本を販売、バーチュアル・ペットのエポック・メイキング商品となる。99年、映画『白痴』がヴェネチア映画祭にてデジタル・アワードを受賞。他に本の執筆、音楽のプロデュース、イベントの企画制作など、表現全般を手掛けている。最新作は劇映画『ブラックキス』(2006年公開)。現在放映中ののテレビアニメ『ブラック・ジャック』の監督も行う。 ・公式ブログ 手塚眞の絶対の危機 |
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<勇見勝彦 プロフィール> 柘植伊佐夫氏に師事、ヘアメイクアップアーティストとして1999年よりフリーランスで活動し、2006年にTHYMON設立。永瀬正敏、浅野忠信、村上淳、成宮寛貴、妻夫木聡、松田龍平、大塚寧々、麻生久美子、夏川結衣、橋本麗香、中島美嘉など多くの俳優・女優のヘアメイクを担当し、手塚眞監督『白痴』『ブラックキス』、三池崇史監督『殺し屋』、実相寺昭雄監督『乱歩地獄』、行定勲監督『春の雪』などの映画作品や宇多田ヒカルPV『誰かの願いが叶うころ』、真心ブラザーズ短編『真心』やCM、TV、雑誌、ファッションショーなど幅広い分野で活躍している。 |




